まず一言で言えば非常に良書である。今の時点でそれなりの英語は読める、という人が「一歩進んだ」英文解釈を始めたいのであれば、手に取って外さない。
第1章
本章では英文解釈の話に入る前に、「日本の英語は文法偏重主義」「喋る英語が大事」といった典型的な偏見、あるいは歪んだ認知に対して、著者の見解が語られる。例えば、日本人は「読めるけど話せないし聞けない」といった言説は「読む」と「話す聞く」の評価軸の乖離に問題があるのだと著者は言う。つまり、「読み」に関しては大学入試レベルで「読める」と言うのに、「話す聞く」に関してはネイティブと比較するというズレがそのような言説を生む。そもそもが比較としてナンセンスなのだ。
他にも、文法の必要性、語彙や語法の知識といった、ともすれば軽視されがちな要素が「中身のある英語力」にとって不可欠であることが説明される。上質な英語力に王道無しということだ。本章だけでも万人に読まれる価値があるとぼくは思う。
第2章
続く2章では、ネットを使って英文に触れる方法などが解説される。便利な時代だなぁ。
第3章
この章では新聞、ニュースといった時事英文の読み方が解説される。日常会話がしたいならいざ知らず、ある程度以上の難度の英文に対処するには、非母語話者は「文法」と「読みの知識」をフルに使って〈予測と修正〉をしないといけないことがこの章を読めば分かるだろう。本章では時事英文に対する「読みの知識」を解説し、実際の時事英文の読解を通して読み方を教えるというスタンスを取る。ぼくは自分の英語力をテストする気持ちで読んだし、一度は分かるところまで自力で解釈するのがいいだろう。解説は丁寧なので安心してほしい。
第4章
前章の時事英文に続き、この章では少し堅めの論理的文章の読み方が解説される。オタクは好きでしょ。日本で言う新書や概説書レベルの情報を洋書から得るには、この章のスキルは必須である。
堅い文章では、より〈予測と修正〉の能力が必要になる。ラッセル、サピア、イェスペルゼン、オーウェル、ショーペンハウアーから例文が引かれており、オタク大満足である。
第5章
個人的にはこの章が本書の白眉だと思う。タイトルは「普段使いの英文解釈」で、SNS や小説、漫画の英語を読んでいく。きらら漫画の英訳を読んだりしているぼくとしては結構楽しかった。ラッセルとウィトゲンシュタインの漫画が引かれておりここでもオタク満足。小説はポーの「黒猫」が引かれている*2。
いずれもコンパクトながら読むのに必要な知識が纏まっていて非常にいい出来だと思う。
総論
新書でこの濃さは力作だと思う。前著『英文解体新書』*3が「英文解釈の技術」だとすれば、この本は様々なパターンの英文に対する「読みの知識」の本であると言える。既に英語を勉強している人は英語力のテストに、まだの人は自分の勉強の方向性を決めるためにも、一冊買って損はないだろう。
あと第1章は読んでほしい。本当に。